第一話 目覚めの岬

気がつけば、俺はカプセルの中に居た。
カプセルには何らかの液体が満たされていて、思わず溺れると思って手足をばたつかせる。
しかし、直ぐにそれは杞憂だと気付いた。

『目を覚ましてください……』

声が聞こえて、直ぐに液体が引いていったからだ。
そしてカプセルの蓋は開いて、漸く俺は起き上がることが出来た。

「……ここは?」

起き上がり、周囲を見渡す。そこに広がっていたのは岩壁だった。とはいえ、無機質な岩肌ばかりが広がっているわけでも無く、ところどころ星座にも似た文様が描かれており、不気味に仄かな光を放っている。
次に、自分の姿を確認。うん、キャラメイキングが出来なかったけれど、どうやら手のひらを見る限り人間のようだ。そこは先ず一安心といったところだろうか。
それにしてもキャラメイキングが無いゲームというのも、このジャンルでは珍しい。まさかプレイヤーの現実の姿を反映させることは無いと思うけれど――無いよな?
カプセルから降りたって、俺はとりあえず歩くことの出来る範囲は歩いてみることにした。ウォーミングアップもかねて、ということになるけれど残念ながらその目論見は僅か数秒で断ち切られることとなる。
なぜならば今居るこの空間が六畳間ほどの広さしか無かったからだ。とはいえ空間自体は円形だからもう少し広いかもしれないけれど、とはいっても直ぐに探索なんて終わってしまう。
もしかしてここはチュートリアルのためにわざわざ作った空間なのだろうか? なんてことを思った。
けれど、直ぐにそれを否定された。

「これは?」

そこにあったのは自動改札機だった。否、正確には自動改札機のようなものだった。何かを出し入れする口は無いし、反応するような場所も無いように見える。
唯一、こちらから干渉出来そうな場所といえば――、あからさまに押してくれといわんばかりのスイッチだろうか。
……どうやら、スイッチを押してみるしか無いようだ。
そう思いながら、俺はスイッチを押した。
スイッチを押すと、そこから何かがせり上がってきた。それはスマートフォンのようなものだった。裏を見ると星座の文様が描かれておりどこか格好良い。
そういえばこのゲームは古代文明の謎を解く目的もあるんだったか。だとすればこのような高度な文明の跡が残っているのも何となく頷ける。

「これを手に取って、どうすれば……」

言葉を遮るように、地面が震えた。
何が起きたのかと周囲を見渡したが、直ぐにそれは目の前にある壁が左右にスライドしている振動なのだと気付いた。
まさか壁そのものが扉だったとは!
はっきり言って、それは想定外だった。体験版でもこの場面は登場しなかったし。きっとこれは体験版をプレイしたユーザーにも楽しめるように、という制作者側の気遣いなのかもしれない。
扉を通り抜けて、外へと出る。
そしてそこに広がっていたのは――無限に広がる景色だった。
目覚めの岬。確かこの場所はそういう名前だったはずだ。体験版はこの無限に広がる景色をこの高台から眺める形からスタートした。
目覚めの岬から見える景色には、巨大な城、廃墟と化した神殿、大小様々な塔が点在している景色が広がっている。望遠鏡でもあればこの景色一つ一つを細かく見ることも出来るのだろうが、残念ながらそんなものは備わっていない。

「この景色すべてが……実際に行くことが出来るんだ……」

まさに、オープンワールド。
この世界の至る所を移動することが出来る、それも自分の力で。
そうなると期待が高まらないわけが無い。

「でも、ここはいったい……。というか、チュートリアル的なものって無かったっけ? 体験版はもう少し丁寧だったような気が」

体験版。
何度も言っているけれど、俺は体験版をプレイしたことがある。その時はストーリーを少しだけ進めると妖精が出てきて、その妖精が色々と教えてくれるはずだったのだが――この感じだとそのストーリーも変わっているような感じがする。
もしかしたらあの体験版は、本編をカスタマイズした話だったのかもしれない。
でもそうだとすれば体験版をプレイしていなかったユーザーにとっては鬼畜の所業とも言えるだろう。だって、どこへ行けば良いのか分からない状態で広大な大地に放り投げられることになるのだから。
ただ、それは予想としては外れていると思う。恐らく、というか確実に妖精は居るはずだ。それはユーザーの難易度調整を図る意味でも考えられるが、あまりに難易度の高いゲームはそれだけでライトユーザーから敬遠されてしまう。ライトユーザーからの敬遠は、即ち販路の縮小に他ならない。

「でも、そこまでが大変だよな。……ええと、確かあの体験版では……」

俺は体験版のストーリーを思い返してみる。
目覚めの岬からスタートし、岬を降りる。すると神殿の跡地には少女が居たはず。その少女は魔物に襲われていてそれを助けると、少女が仲間になるはずだ。
確かそこまでが序盤のストーリーで、この地方を攻略するまでが体験版のストーリーとなっていた。
もしストーリーの大きい枠組みが変わっていないならば、神殿に何らかの仕掛けがあるはずだ。
そう思って俺は神殿の跡地へと向かうべく、岬を降りていくのだった。