魔女学校からの刺客03

「ええ、そうです。ご存知ではありませんか? 栗を使ったケーキ……モンブランはかなり有名なものなのですよ。……こんなに美味しいものを知らないとは、魔女も知識は偏っているんですね?」
「……あなた、私は客よ?」
「さっき、客としてやってきていないというこちらの言葉にうんともすんとも言わなかったのはどなたでしたか?」
売り言葉に買い言葉。
しかしここはメリューさんが一歩リードといった感じだろうか。

「……で。私に何をするつもりですか」
「だから、言っているじゃ無いですか。この目の前にあるケーキ……これを食べてください、と。ああ、もちろんお金は要りませんよ。これは、こちらからの好意ですから。好意にお金をいただけません」
「……そこまで言うなら、食べてあげてもいいでしょう。ほんとうは亜人の作るものなど口に入れたくはありませんが」

言い訳を繰り返した挙句、やっと魔女はモンブランを口に入れた。なんというか、一つの行動にいちいち言い訳をしていかないと行動出来ないのだろうか? 正直、非常に面倒な行動原理だと思うけれど。
さて、魔女はモンブランを口に入れてからどうしたかというと、硬直していた。ちょうどそのタイミングで氷漬けにでもさせたような、そんな感じだった。
魔女はずっと一口分消えていたモンブランを見つめていた。余程モンブランが気になっていたのかもしれないが、いずれにせよ何らかの反応を示していることには間違いない。食べる前と後で、反応が大違いだ。
そして、ゆっくりと魔女は顔を上げて、顔を震わせながら、呟いた。

「お、美味しい……」

魔女が甘味に屈服した瞬間だった。

「な、何よ。このスイーツは! まったくもって理解ができない。今まで、食べたことの無い味だわ!」
「特殊なものは何一つ使っていませんよ」

メリューさんは魔女の思考を読み取ったのか、そんなことを口にした。
魔女はそれを聞いて目を見開く。

「それなら、これは……」
「強いて言うなら、愛情」

答えたのはメリューさんでは無く、その隣に立っていたリーサだった。
ということは、このモンブランを作ったのはメリューさんでは無く。

「まさか、リーサ。これを、あなたが?」

こくり。リーサはしっかりと頷いた。
それを聞いた魔女は、それでもリーサが言った言葉を理解出来なかったのか、もう一口モンブランを口にした。
しかし、何口食べようとも味が、評価が、変わることは無い。

「美味しい、美味しい……。これほどまでの料理を、あなたが作ることが出来るだなんて」
「未だ修行中の身ではありますが、それでも食べた人に評価してもらえる物を作ることが出来るようにはなりました」

神妙な面持ちで告げるリーサ。
それにしても初めて知ったな。まさかリーサがこれほどまでに美味しそうなモンブランを作れるなんて。

「……あなた、ここでずっと暮らしていくつもり?」
「少なくとも、ここではあの学校で学べなかったことを学べていますし、充実しています。だから、今の私はとても幸せですよ」

それを聞いた魔女は小さく笑みを浮かべる。

「……そう言われてしまったら、何も出来ないわね。分かったわ。ご馳走様でした、美味しいスイーツだったわ」

立ち上がると、魔女は数枚の銀貨をカウンターの上に置いた。
そしてリーサを見つめながら、魔女は言った。

「流石にこのスイーツを食べて、無料で帰ろうとは思わないわ。でも、私はまだ諦めていないし、あなたをいつでも受け入れる準備は出来ている。それは忘れないでね」

そして、魔女はボルケイノを出ていった。
どこかすっきりとしない、そんな感じを俺たちに残していきながら。

終わり