第一章

ドラゴンメイド喫茶、ボルケイノ。
異世界から色々なお客さんがやってくるこのお店も、午後三時を過ぎればブレークタイム。
「とはいっても、常にブレークタイムみたいなもんだけどさ……」
「ケイタ、何か言ったか?」
洗い物も無ければ、準備もあらかた終わってしまっている状態。
とどのつまり、今のボルケイノは暇そのものだった。
「やっぱり、この時間はお休みにしませんか?」
ケイタと呼ばれた青年は、後ろに立っていたドラゴンメイドに声をかける。
ドラゴンメイドは笑みを浮かべると、持っていたお玉を見て、
「それは無理よ。だって、あの扉は無数の異世界と繋がっているのだから。時間も世界もまったく違う、そのような状態でお休みを設けるわけにはいかない。まあ、生憎とんでもなく混むわけでは無いからいいかもしれないけれどね」
「それはそうかもしれないですけど……」
カランコロン。
ドアに取り付けられている鈴が鳴ったのはちょうどそのときだった。
「いらっしゃいませ。お好きな席におかけください」
いつもの挨拶をしたところで、ケイタはやってきた客の姿を見てみる。
ブラウンのブレザーに近い服を着崩している少年が二人と、しっかりと制服を着用している(簡単に言えば、校則を完璧に守っているような)少女が一人。併せて三人だった。
ボルケイノは最近複数人の客がやってくることは無いから、これは有り難かった。何せ、お客さんが来なければケイタの給料が払われるかどうかも怪しいところだからだ。
「フル、どこに座ろうか?」
「うーん、やっぱりテーブルにしようよ。窓際もいいかもね。景色も良いし」
「……ってか、ここどういった空間よ? 魔法で空間を移動させている、といっても恐らくそもそも私たちが住んでいる世界とは違う世界に見えるけれど……」
三人目の少女の発言は、まさしく的を射ていた。
結局三人の少年少女はそのまま窓際のテーブル席に座った。
テーブルをある程度物色していた『フル』と呼ばれた少年は、手を挙げてカウンターを見つめる。
「すいません。ここってメニューは無いんですか?」
ケイタにとっては定番とも言える質問だった。
寧ろこの質問をしてくる、イコール、ボルケイノ初心者と言えるだろう。
「ここにはメニューはありませんよ。その代わり、お客さんが一番食べたいと思っているもの、それを作るお店がこちらです」
そしてケイタはもはや定型文とも言える回答を示した。
「……ふうん。変わったお店ね。ねえ、フル。だったらそれに併せて待ってみることにしましょうよ」
「さっき、疑心暗鬼になっていたのはメアリー、君だからな?」
「そうだったっけ?」
メアリーと呼ばれた少女はそれだけを言って、笑みを浮かべた。
ケイタは料理が作られているかどうか確認するためにキッチンへと向かった。

◇◇◇

「……メリューさん、どうして鍋なんか作っているんですか?」
キッチンに向かうと、ドラゴンメイドの料理人――メリューが鍋を煮込んでいた。
「うん? そりゃあ、当然だ。あの客が食べたいものを作っているんだ。それが鍋、ってだけの話」
「それはそうかもしれないですが……。でも、鍋ですか」
「何だ、だめだったか? 別に変な話でも無いだろ。鍋は大人数で食べやすい料理だし、身体を温めることも出来る。何せ、あの客は長い旅を続けているようだからな」
「分かるんですか?」
「それくらい、分かるんだよ。客が食べたい料理も分かるが、私はもともと冒険者だったからな?」
メリューは元々人間だった。そして冒険者であり料理人でもあった。
だから冒険者の心情は理解しやすいのだろう。ケイタはそんなことを思っていた。
「さて、鍋は煮込むのに少し時間がかかるから……、何か飲み物でも出してやれ。もちろん、子供だからコーヒーじゃなくてお茶かジュースのほうがいいだろう。ケイタ、お前はどっちが良いと思う?」
「うーん、どっちでも良いと思いますけれど、やっぱりジュースじゃないですか。旅で疲れているなら、甘いものを摂取するのもありかと」
箱から大きな瓶を取り出したメリューはそれをケイタに差し出す。
「それならこれだな。疲れもとれるし、それほど甘さが無い。ルカニアの実を使ったジュースだ」
「ルカニアの実って、あの『さくらんぼ』みたいな?」
「ケイタの世界ではそう呼ぶんだったか。……まあ、そんなやつだ。とりあえずこれを持って行ってやれ。私は鍋の火加減をチェックしないといけないから、ここを離れられない」
分かりました、と言ってケイタは瓶とコップを三つ持ってカウンターへと戻るのだった。