魔女学校からの刺客02

「客としてやってきていないなら、さっさと出て行ってもらいたいのだけれど。はっきり言って、こちらも暇ではないので」

「……その割には、すいているようだが?」

うぐう、ここでそれを言ってくるか。というか、それを躊躇いなく言えるということは性格が捻じ曲がっているな。また近いうちに対立しそうだ。

はてさて。

これからどうやって対処すればいいものか。問題と言えば、いや、正確に言えば問題だらけだからどうにかしてここから出て行ってもらいたいものだけれど、この性格からして一筋縄ではいかないだろう。

「……それにしても、こんな寂れた店にどれ程の価値があると見込んだのだろうか、あの魔女見習いも」

「魔女でしょう、彼女は。まぎれもない魔女ですよ」

俺はそこで思わず反論していた。あくまでも、トーンは普段のトーンと変わらないものだったけれど、いつ怒気を見せてもおかしくないくらい、俺の感情は爆発寸前だった。

俺の感情――その沸点が低いわけではない。問題は、今まで共にしてきた仲間のことを無下にされているから、かもしれない。

俺はとにかく感情に任せるつもりはなかった。

ではどうすればよかったのか?

答えは単純明快。

「……魔女だから、どうだっていうんですか」

「はあ?」

「確かに彼女は魔女ですよ。でも、だから何だと? 寂れた店だから何だって言うんですか。全部価値があります。あなたには到底解らないものであったとしても、価値は価値です」

それを聞いた女性は一笑に付し、

「何ですか? 怒っているんですか。……まったく、低俗な存在ですね。店も低俗なら従業員も低俗ですか」

「なにを……」

もう我慢できなかった。

ずっと言わせておけば、と思っていたがもう我慢など出来るはずがない。

いや、そもそもの話――客商売では一つ暗黙の了解がある。

暗黙の了解というよりも、それは誰しもが知っているようなルールになるのかもしれないけれど。

 

――お客様は神様である。

 

それは、決して客側が言っていい発言ではない。お客様は神様という言葉は、そもそもとある歌手が発言した言葉だと言われている。客席に立つお客様を神様だと考えて、雑念を取り払うことで、最高のパフォーマンスを実施することが出来る。だから、お客様は神様である――そう言われている。

しかしながら昨今はその発言の意味が捻じ曲げられていて、どちらかといえば、客商売全体に広まってしまっている。そもそも客商売全体に広まってしまうこと自体発言の真意とは大きく違ってしまうし、その発言こそがクレーマーを生み出してしまうのだろう。

「ちょっと待った、さっきから聞いていればあなたは酷い発言ばかりしているようね」

そう言って姿を見せたのは、やはりメリューさんだった。そしてその隣にはリーサが立っている。

いつまで話を傍聴していたのだろうか――もしかして俺が何かするのを待っていたのか。だとすればもっと早く出てきてくれればこの横暴な魔女の話を聞くことは無かったのだけれど。

「やってきましたか。いったい何をしていたのですか、時間稼ぎをしたところで私はあなたを連れ戻す準備はとうに出来ているのですよ!」

「まあ、そうは言わずに。先ずはこれを食べてみてはくれないか」

そう言って、メリューさんは手に持っていた皿を魔女の前に置いた。

それはモンブランだった。

栗をふんだんに使ったケーキで、確か現地の言葉で『白い山』という意味だったかな。スポンジケーキの土台の上に生クリームをホイップしたものを包み込むように螺旋状に栗のクリームを巻いていく。それがモンブランのスタンダードなつくり方だったはずだ。

「何だ、このケーキは」

「御存じないようですね。こちらは、栗を用いたケーキでございます」

「栗、だと?」

それを聞いて、初めて魔女は表情を変えた。

目を見張るような表情に変化を遂げた、と言えばいいだろうか。いずれにせよ、ずっと同じ表情で固定されていたから、表情を変えることが出来ないんじゃないか、と思っていたから、これにはちょっと驚きだった。