第十四話(1)

 

竜馬車に乗って数日。

結局僕たちはあれから商人の人たちに何も言うことなく、エノシアスタを後にした。バルト・イルファの発言を真に受けたわけではないけれど、いずれにせよ、僕たちはその影響を考えなさ過ぎていたことも事実だった。

予言の勇者という冠は、僕たちの想像以上に、僕たちを苦しめていた。

「……見えてきたぞ」

シュルツさんがぽつりとそう言った。

それを聞いて僕は我に返り、窓から外を眺めた。

荒野の中に突如として現れた青い海と、港町と思われる城壁。そして城壁の中には堅牢な城が建っている。

「あれが、スノーフォグの首都……ヤンバイト」

「そうだ。あれがスノーフォグの首都にして世界有数の港町、ヤンバイトだ。それゆえ、あの町は食の都と呼ばれているよ。世界から様々な食べ物がやってくるからな。そういわれるのは当然といえば当然だろう」

「ヤンバイト……食の都、か。なかなか美味しいものがたくさんあるのかな?」

「そりゃあ、食の都っていうくらいだからたくさんの食べ物があると思うぞ。それに量だけじゃなくて、種類も多いと思う」

レイナの言葉に僕はそう答えた。

そうしてそれぞれの思いを抱きながら、僕たちはヤンバイトへと向かうのだった。

 

◇◇◇

 

通りを歩くたびに、いろいろな香りが鼻腔を擽る。

店の前に立っているいろんな人は商品と思われるものを手に持ちながら、それぞれの商品が一番素晴らしいことをアピールしながら、声をかけていた。商品を売ることが商人にとって一番の儲けになるから無理やりでも売ろうと思う気持ちは解らないでもないけれど、あまり押しつけがましいことをしてしまうと、購買意欲を削いでしまうことになる。

だから、商人は適度なバランスで客寄せを行うことが求められる。まあ、そんなことは消費者には関係ないことだと言ってしまえば、それ以上どうしようもない事実ではあるが。

「……それにしても、ほんとうにすごくたくさんの商品が販売されているね……。食の都、とは言うけれどそれ以上に物が溢れすぎているのかもしれないな」

僕は冷静にそう分析してみたけれど、

「そうかもしれないけれど、やっぱり物って集まるべくして集まるものだと思うよ。実際に、ヤンバイトの人口は世界で二番目。それに港町として港運が発達しているから……。それだけを考えると、世界のどこよりも物がたくさんやってくるのは頷けるんじゃないかな。まさに、集まるべくして集まった、という感じだよ」

どうやらルーシーもルーシーで冷静に分析していたようだった。

それは僕にとっても想定外のことだったけれど、その『想定外』は嬉しい誤算だったといえるので別にどうでもいいことだった。

「それにしても問題は宿、か……。まだ夕方とはいえ、人が多い。ヤンバイトの宿はたとえどれほどグレードが高い場所であっても金さえ払えば満室に一つ空きを作ることだって出来る。……それだけを言うと荒くれものの街に見えるかもしれないけれど、でも実際はそんなことなんてなくて、正確に言うと、金さえあればどうとでもなる。それがこの町の常識とでもいえるだろうね」

「……成る程。金さえあれば、ね……」

要はまともに行政が動いていない、ということだろう。

あまりにも人が増えすぎて、それに行政が追い付いていない、ということなのかもしれないが。

「それにしても、人が増えたってことだよな? 人が増えたってことは、やっぱり物も増えるという感じでいいのか?」

「そうだね。人が増えた、ってことだろうね。ここは港湾としても有名だから、ここからハイダルクやレガドールに移動することもできるし。世界中を移動している船だっているからね。だから増減は激しいと思うよ」

船、か。

やっぱり船が必要なのかなあ……。また前みたいに定期船を使う手もあるけれど、そうなると定期船がない場所には移動できない、ということになってしまうし。うーん、RPGみたく、特定の場所にワープできる魔法でもあればいいのだけれど。

「やっぱり船かあ……」

「さすがに竜馬車は海を泳げないからねえ」

シュルツさんはそう言って、空を見つめた。

もし竜馬車が海を泳げるのならば、それを使って海を泳ぐことも可能かと思っていたのに、さすがにそこまで都合よく物事が進むことは無かったようだった。

「とりあえず、もし船が欲しいと思うのならば船を見に行くのもいいんじゃないかな? 生憎、この街にはドックがあったはずだし……」

「ドック?」

「船を作ったり修理したりする施設のことだよ。船自体どれくらいの値段がするのか解らないけれど、まずは見てみないと何も解らないし」

確かにそれもそうだった。

ただ、お金がないこともまたまぎれもない事実だった。

一先ずドックに行ってみないと何も進まない。そう思った僕はシュルツさんのいうことを信じて、ドックへと向かうのだった。

 

◇◇◇

 

ドックは当然のことながら、海の近くに存在する。

「ドックなんて来たことないけれど、こんな活気のある場所なんだね……」

ルーシーはきょろきょろと周りを見渡しながら、そう言った。

はっきり言ってそういう行為は目立ってしまうのでできればやめてほしかったのだけれど、今の彼にきっとそんなことを言っても無駄なのだろう。

「おう。どうした、こんなところに子供がいるなんて。ここは子供がうろつく場所じゃないぞ?」

そう言ってやってきたのは筋骨隆々のタンクトップを着た男性だった。何かの資材を運搬しているようで、汗をかいていた。

男性の話は続く。

「……まさかとは思うが、船が欲しいのか? だったらここじゃなくて、販売所に言ったほうがいいぞ。ここはあくまでもドックだ。ドックの意味を理解しているか? ドックは船を開発・建造する場所。対して販売所は名前の通り船を販売する場所だ。船は開発しない限り、販売することは出来ないがドックで船の販売は出来ない。建前上、別々にしておく必要があるというわけだからな」

ぶっきらぼうに見えるけれど、案外丁寧に教えてくれるんだな。

僕はそう思って男性の話を聞いた後、男性にお礼を言って、販売所のほうへと向かうことにした。

 

 

販売所はそう遠くない距離にあった。正確に言えばドックの内部、その中心部にあった。

中に入ると恭しい笑みを浮かべて髭面の男がさっそく声をかけてきた。

「おやおや、いらっしゃいませ。若いのに、船を買いに来た。そういう感じでございましょうか? それにしても、最近の若者はかなり堅実ですねえ。ちょいと驚いちゃいましたよ。おっと、これはオフレコでお願いいたしますね。……はてさて、どのような船をお望みですか?」

早口でまくし立てるように話をする男は、いつもこのように話をするのだろう。先手必勝を地で行くとはまさにこのことだと思う。

「……いや、とりあえず少し船を見に来ただけです。欲しいことは欲しいのですけれど」

「さようでございますか。それではごゆるりと。何か用事がございましたらまた私に言ってください。それでは、以上よろしくお願いします」

そう言って男はカウンターの向こうへと姿を消した。まあ、いつもずっとついてくるよりかはマシかな。こういう店員は最初だけ簡単に対応しておけば問題ないだけのこと。

はてさて。

問題はここからだ。

僕たちが乗ることのできる船を、如何にして調達するかということについて。

当然、非合法的手段はあまりよろしくない。ラドーム学院の生徒、という称号がある以上それを後ろ盾に悪さをすることは無理だ。というか不可能と言って過言でない。

だったらどうすればいいか。

一番まっとうな手段で挑むならば、船を購入するに尽きる。けれど、船を購入するといっても――。

「……やっぱり、それなりにするね」

販売所には実際に船が置かれているわけではない。船の写真と値札が置かれており、店員にその船を指定して見せてもらうことが出来る仕組みになっているらしい。どうして知っているかというとショーウインドーにそう書かれた紙が置かれているからだった。

船の値段の相場が実際にどれくらいになるのかは定かではないが、並んでいる商品はすべて僕たちがもっている全財産をはるかに上回るものだった。仮にハイダルク王からもらった路銀を一切消費せずにここまでやってきたとしても、あまりに足りない。

「やっぱり購入するのは無理か……」

僕は店員に聞こえない程度のボリュームでそう呟いた。

「いらっしゃいませ。……おや、どうなさいましたか?」

カウンターのほうから声が聞こえて、僕たちはそこでまたお客さんがやってきたのだと理解した。それにしても船を買うなんて安い買い物では無いと思うのだけれど、よくお客さんがやってくるのだと思った。もしかして金持ちはシーズンで買い替えることもあるのだろうか? それこそ、衣服か何かのように。

「はあ。……わかりました。別にあなたたちに逆らうつもりなんてありませんよ。誰を求めているのか、お上の意向はさっぱり理解できませんが、とにかくお探しください」

カウンターの店員のトーンがすっかり下がっているのに、少しだけ時間を要した。

いったいどうしたのだろうか。そう思って僕は踵を返して――。

「フル・ヤタクミだな?」

そこに立っていたのは兵士だった。冷たい目をしていた。

兵士はこちらに目線を向けたまま、言った。

「国王陛下がお呼びだ。何を目的としているのかさっぱり解らないが……とにかく、予言の勇者を一目見たいと仰っている。このまま王城に来てもらうことになるが、構わないな?」

「……解りました」

その言葉に、ノーとは言えなかった。

 

◇◇◇

 

高台に位置するヤンバイト城までは、ハイダルクと同じように馬車を利用した。ちなみにシュルツさんの竜馬車はこの町にやってきて早々に確保していた宿で留守番をしている。珍しい馬車であることには変わりないが、『操縦するのは僕だけしか出来ないから、盗まれることは先ずあり得ない』と言っていたので問題ないのだろう。たぶん。

兵士は馬に乗ったままこちらに会話を投げかけることは無かった。馬車の中では僕たちがただ静かに目的地に着くのを待つだけだった。

会話が生まれない時間は、はっきり言って不毛だった。けれど、皆緊張していたのだと思う。ハイダルクではない別の国のトップに謁見する。しかもこちらから申し込みなどしたのではなく、先方からの要望だというのならば猶更。

高台にある雪の城。

それは見るものを圧倒させる、荘厳な雰囲気を放っていた。

ヤンバイト城を見たとき、僕はファーストインプレッションとしてそう感じ取った。

ヤンバイト城に到着し、僕たちは馬車から降り立つ。

「こっちだ」

しかし兵士はそのまま息を吐く間も与えず、僕たちを誘導していく。

「いったい、兵士は何を考えているのだろうね? ……ふつう、少し休憩の時間くらい与えてくれるものじゃないか?」

「余程急いでいるんじゃないか。そんなに早く僕たちに出会いたいのか、という話に繋がるけれど」

僕とルーシーは兵士に聞こえない程度のトーンでそう言った。

「そうなのかなあ……。だとしてもこんなに客人を焦らせることttえあるのかい? まあ、国ごとの風習みたいなものがあるのかもしれないけれど。そうだとしてもちょいと不愛想な感じではあるよね」

そんなことを言っている暇などない。

まずは兵士の後をついていく。ただそれだけだった。

そして僕たちは兵士の後を追いかけていくのだった。

 

 

ヤンバイト城、国王の間。

荘厳な雰囲気を放っているその空間は、やはりなかなか慣れるものではなかった。

一度ハイダルクで経験したことがあるといえ、あまり経験しても意味はないのだと思い知らされる。

それはそれとして。

「突然呼び立てて済まなかったな、フル・ヤタクミにルーシー・アドバリー。それに、その仲間たちよ」

声が聞こえた。

とても優しい声だった。

僕たちは慌てて跪き、首を垂れるが、

「よい。特にそのようなことをせずとも、先ずは話がしたかっただけだ」

そう言って笑みを浮かべるだけだった。

その女性はとても美しかった。赤と白を基調にした服装――僕がもともと居た世界では巫女服とでもいえばいいのだろうか? 白い服に、赤い袴をアレンジした雰囲気、といえばいいのかもしれない。ああっ、くそ。こういうときに語彙力があればもっと伝わるのにな。なんというか、もう少し本を読んでおくべきだったかもしれない。

「名前と職業は知っているだろう。だから簡単に説明しておこう。私の名前はスノーフォグ国王、リュージュだ。こんな遠いところまでよくやってきてくれた。さて……なぜここまでやってきたのか、先ずはそれをお聞かせ願えないかな、予言の勇者殿」

「ここに来た理由、ですか……」

ここで僕は悩んだ。

正直に言ってしまっていいのだろうか、ということについてだった。

正直に言ってしまえば、メタモルフォーズがこの国から飛来してきたから、と言ってしまえばいい。だが、この国の王の前でそう言ってしまって何が起きるか解ったものではない。だから出来ることならそんな危険な賭けはしたくなかった。

では、適当に嘘を吐けばいいのか?

いや、でもすぐにそんな都合のいい嘘が浮かぶほど頭の回転が速いわけではない。

ならば、どうすればいいか。真実を告げるのも嘘を吐くのもリスキーだ。

それ以外の、第三の選択肢を考えないといけないのだが――。

「別に、言葉を飾る必要は無いぞ?」

そう言ったのはリュージュ王だった。

リュージュ王は、優しく、柔和な笑みで微笑んだまま、僕のほうを向いて、

「何か言葉を考えているように思えるが……もしかしてここでは言い辛いことだったか? 別にそんなこと関係ない。私の心は寛大であるからな。予言の勇者殿が一つ二つ失言したところで私の機嫌が損なわれることはない。むしろそんな程度で損なわれてしまっては、国王失格というものだよ」

「そういうものですか……?」

「ああ。だから安心して言ってもらっていい。さあ、この国に来た目的は?」

そう言ったのならば、正直に言うしかないだろう。逆にここで嘘を吐いてしまってはそれこそ何が起きるかわからない。逆鱗に触れてしまい折檻される可能性も考慮しないといけないだろう。

だからこそ、慎重に言葉を選んで、僕は言った。

「――実は、この国からメタモルフォーズが飛来してきました。僕たちはそれを調査するためにこの国にやってきました」

「ほう。メタモルフォーズがこの国から……。成る程。それは私の前では言えないことだな。その言葉は即ち我が国をメタモルフォーズの発生源として疑っているということに繋がるわけだからな」

「実際、軍部の人も……名前は確か、アドハムだったかと思いましたが……メタモルフォーズの開発に関与していました。研究施設があって……そこでメタモルフォーズを研究していたようなのです」

「ふむ。……メタモルフォーズの研究施設、だと? それにアドハムが関与していた、と言いたいのか?」

ずい、と身体を起こしてリュージュ王は言った。

流石に言い過ぎたか――そう思って僕は謝る準備をしていたのだが、

「成る程。しかし、まさかあのアドハムがそのようなことをしていたとは。ほかには? アドハムがした行為でもいい。君たちがこの国で得られたメタモルフォーズについての情報を教えてくれないか。もしかしたら、力になれるかもしれないぞ」

「え、……ええ。確か、アドハムは別の勢力に倒されてしまいました。バルト・イルファ……だと思います。とても強い魔術師が居るんです。きっと彼に殺されてしまったものかと……」

「その、バルト・イルファとやらはとても強い魔術師なのか?」

僕はその言葉にこくり、と頷いた。

それは真実だ。そこで嘘を吐いて虚勢を張る必要はなかった。虚勢を張ったところで僕の危険が増すだけだ。ならばここは正直に言ってしまったほうが後が楽だと――僕はそう思った。

「……そうか、それほど強い魔術師がアドハムとともに、少しの間であったとしても行動していたとは。そしてアドハムの勢力は何らかの理由でその魔術師の勢力と意見の相違があったのだろう。そうして倒されてしまった。力こそすべてだ。言葉がうまく通じなかったら、力の強い弱いですべてが決まってしまう。ほんとうに、ひどく残念な世界だよ。今の世界は」

リュージュは溜息を吐き、肘あてに肘をつく。

そして僕たちを舐めるように見つめると、大きく頷いた。

「それにしても、魔術師に狙われるほど、お前たちは何か喧嘩を買ったということ……ではないだろうな。いずれにせよ、『予言の勇者』というレッテルが君たちの運命をそうさせているのだろう。レッテルを張られた人間というのも滑稽で可哀想な存在だ。……っと、当事者の前で言う話ではないかもしれないが」

「?」

リュージュの発言はもうどこかに飛んで行ったような感覚だった。

正確に言えば、独り言。

もっと言えば、虚言。

……さすがにそこまで行くのは言い過ぎかもしれないが、いずれにせよ、そういう判断に至る可能性があるほど、リュージュは周りの人間を放っている発言しかしていなかった。まるでフルフェイスのヘルメットを被って綱渡りをしているように。

実に危険。

実に奇妙。

それほどにリュージュの発言はどこか的外れで、見当違いで、不明瞭だった。

「……とにかく、これ以上の発言を君たちから得られることは出来ないだろう」

リュージュの発言は僕たちに対する諦観よりも、自分自身の考えの掘り下げがうまくいかないことへの気持ちを表しているようだった。

リュージュは隣の兵士に指示を仰ぎ、

「いずれにせよ、予言の勇者ご一行はひどく疲れているようだ。もうここの宿は決めたかね? 決めていないのであればこの城の宿舎を使用するがいい。生憎、設備こそ古いものではあるが浴場もある。食堂もある。それに……私も一つ君たちにある依頼をしたい。そのためにも、先ずはそれくらいの前払いをしたいというものだ」

「前……払い?」

「知恵の木の実について、どれくらい知っている?」

知恵の木の実。

リュージュの発言は簡単なことだった。

知識の説明を、明示。

正確に言えば、どこまでその単語について知っているか、知識量の提示。

いずれにせよ慎重に解答する必要がある質問であることには何ら変わりなかった。

「……知恵の木の実は代償無しで錬金術を行使することのできる夢のアイテムだ。正確に言えば、知恵の木の実はその名前の通り、この星の知識が詰め込まれている。いや、この場合は知識というよりも記憶といったほうがいいべきか。いずれにせよ、そのエネルギーは莫大なエネルギーだ。だからこそ知恵の木の実は伝説のアイテムとして知られていて、それを欲している錬金術師も少なくない」

僕がどう答えるか考えているうちに、リュージュが先にそう答えた。はっきり言ってまさか先に言われるとは思っていなかったのだが、しかし言われてしまったものは仕方が無い。

リュージュの話は続く。

「だが、その伝説のアイテムをいとも簡単に開発することの出来る物。それが開発されたとしたら?」

それを聞いて、僕たちは目を丸くした。

伝説のアイテム――知恵の木の実の錬成。それが簡単にできるアイテムが開発された?

もしそれを使って知恵の木の実を量産されてしまったら……正直、考えるだけでも恐ろしい。というより、なぜそのようなアイテムを開発したのか――という点が気になるところではあるけれど。

「もともと、わが国の軍事技術の転用のために開発されたそのアイテムだが、もう平和になってしまったからな。使わずに設計図は放置されていたのだよ。……だが、それをあいつが奪った。そのアイテムの開発者であるタイソン・アルバが、な」

「タイソン・アルバ……」

僕はリュージュから聞いたその名前を反芻する。

リュージュはそれを聞いてこくりと頷くと、ある書状を差し出した。

「今日はもう遅いから……明日、正式にこれを通知することになるが、いまドックには完成したばかりの船が数多く並んでいる。その中でも最新の船を君たちに与えよう。これは、それが記載された書状だ。これをドックの人間に見せればすぐにそれを渡してもらうことができるはずだ」

それって……!

つまり、願ったりかなったりじゃないか!

僕たちにとってみれば、メアリーを助けるためにも船が欲しかったところだ。

その船を、しかも無料で、最新のモノが手に入る!

僕は勝手に心の中でうれしく小躍りしていた。

「……ただし、条件をつける。その船の書状を渡すのは……タイソン・アルバという科学者を探してここに連れてくる。それが条件だ。ああ、もちろん、タイソン・アルバは海の向こうに逃げたという可能性も考えられるから、そのために船を与えると思ってもらえばいい。もちろん、タイソン・アルバを捕まえたあとも返してもらう必要はない。それは君たちの船になるわけだからな」

そこまで言って、リュージュは立ち上がる。

「……さあ、ここで改めて質問しようか? タイソン・アルバを捕まえてくれるかな。もちろん、拒否してもらうことだってかまわない。君たちは予言の勇者と呼ばれている存在。その第一目標は世界を救うことなのだから」

僕たちに、選択肢なんて無かった。

リュージュは犯罪者を捕まえてほしい。

僕たちはメアリーを助けるためにも船がほしい。

双方の目的が、これまで以上に合致している。

そうして、僕たちは――その言葉にしっかりと頷いた。