第十八話後編

 

「強い反応がある」

ルーシーの言葉を聞いて、僕たちは城内へと足を踏み入れた。

進むにつれて、一つ、大きな『異変』を感じ取ることが出来た。

それは襲い掛かってくる人たちのこと。襲い掛かってくる人たちは明確な悪ではない。給仕であったり兵士であったり……皆一般的な市民であった。まるで何か大きな意志に操られているような、そんな感覚だった。

「傷つけないで! きっと彼らは何かで操られているだけよ。動きのみを封じるのよ!」

そう言ってメアリーは彼らの足元に草を生やし、それを結ぶことで足を引っ掛けさせ、そのまま彼らの動きを封じた。

「それさえ聞けば……どうということはない!」

僕もそれに従い、スタンガンのように電撃をぶつけて気絶させていく。あくまでも気絶させるのが目的なので電流は少ない……はずだ。加減出来ているかどうかは解らないけれど、黒焦げになっていないからたぶんそのあたりは問題ないだろう。

ルーシーはどうしているだろうか――ふとそちらのほうを見てみると、常人には追い付けないようなスピードとパワーで次々と襲い掛かってくる人たちをねじ伏せていた。正確には一撃一撃が見えないほどのスピードで相手を気絶させている。

「……ルーシー、そのスピードとパワーはいったい……?」

「どうやら、主従融合というらしい」

ルーシーは自分の腕を見つめながら、そう言った。

ルーシーの話は続く。

「僕もこれがどれくらいの力を秘めているのかは解らないけれど……、でも守護霊と力を合わせることで、人並み外れたパワーとスピードを得る事が出来るらしい。現に今もそうだった。まるでこれは自分の力ではないような、そんな錯覚に陥るくらいだったよ」

そう言ってルーシーは笑みを浮かべる。

そうして僕たちはそれぞれの力を駆使して人々から戦力を奪っていったが――それでも処理能力が追い付かない。

埒が明かないと思ったのか――メアリーは舌打ちを一つして、僕たちに声をかける。

「もう、我慢できない! ……みんな、私のほうに集まって!」

声を聴いて、僕たちはメアリーのほうへと集まる。

同時に、メアリーは持っていたシルフェの杖で地面をトン、と叩く。

刹那、僕たちの居た部分の地面が大きく塔のように競り上がっていく。ゾンビのように僕たちに襲い掛かってきた人たちはそれによって地面に落下する人たちもいれば、塔を崩そうと無意味な攻撃を続ける人たちも居た。

「これで何とか目の前の問題は解決するはず……!」

メアリーはそう言って、深い溜息を一つ吐いた。

僕たちが次に地面に降りたったのは、周囲に誰も居ない広場だった。無論そういう場所を求めていたのであって、そこはちょうど理想な場所だったと言えるわけだが。

円盤のように象られたその空間は、まるで何かの舞台のようにも思えたが、それは結局ただの僕の思い違いに過ぎなかった。

「……静か、ね」

「そうだね……」

メアリーが言った通り、その場所はとても静かだった。正確に言えば遠くに人々の喧騒が聞こえてくるので全くの無音というわけではないのだが、それでもあまりにも静か過ぎる。まるで何者も寄せ付けない結界が張られているかのように。

『侵入者を発見いたしました』

ひどく滑らかな声だった。人間だったらつけるべきタイミングでつける抑揚がつけられていなくて、逆につけなくていいところで抑揚がついている。簡単に言ってしまえばあべこべな抑揚だった。

腰まで届きそうな金のロングヘアーにその背格好には見合わないぶかぶかの白のワンピース。

そんな少女がそこに居た。

少女には感情が一切見られなかった。もっと言ってしまえば生気すら感じられなかった。それはどういうことだったのかその時の僕たちには判別が付かなかったわけだけれど。

動きがあったのは、そのあとすぐのことだった。

『目視により身体的特徴を確認。……「ホープ・リスト」と照合します』

そして、少女はその場から、消えた。

「……痛っ」

刹那、僕の頬を何かが擦った。

頬を触るとぬるりと暖かいものが触れる。それを手に取って見ると、赤い液体だった。

それが血であることに気付くまでそう時間はかからなかった。頬の傷はそう深くなく、擦り傷程度のようだった。

そして背後を振り返ると……そこにはあの少女が変わらぬ姿で立っていた。

ただ一つ違うところを上げるならば、少女の右手にあったナイフに赤い血がべっとりとついていることだった。

「今のスピード……、主従融合した僕でもまったく捉えることが出来なかった……!」

ルーシーはそう言って、少女を睨み付ける。次はそのようなことはさせない、という彼なりの構えだったのかもしれない。

しかしながら少女はこちらに向かってくる様子は無く、僕たちをただ見つめているだけに過ぎなかった。気持ち悪いほどに、ただじっと見つめていた。

『DNA情報が一致。三名のうち一名を「ホープ・リスト」内の人物と断定。状況報告を開始致します』

そう言って、少女は一歩近づく。

僕も、ルーシーも、メアリーも、次こそは先手を取られない、いや、取られてたまるかという強い思いを抱いて構えを取っていた。

だからこそ、次の少女の行動が、まったくもって想像出来なかった。

少女は僕たちに近付いて、ちょうど僕と二メートルくらい離れたあたりで立ち止まり、そのまま跪いたのだった。

「……え?」

当然、僕たちは困惑してしまう。今まで僕たちに戦意を抱いているように見えたため(とは言っても感情は一切見えないから、それはただ行動を見て評価しただけに過ぎないのだけれど)何故そのような行動を取ったのか解らなかった。

行動さえ見れば、真逆とも取れる行動だ。一言で表せば一変、或いは豹変という言葉が似合うかもしれない。

いずれにせよ、少女の行動には理解し難いものがあった。

「……待って。今あなた、状況報告と言ったわよね? それってこの世界に関しての状況? それともフルが元々居たという世界と関係ある状況のこと?」

『……「現地人」にはもう状況がある程度察せていましたか。もっとも、現地人というよりも正確にはこう言ったほうが正しいのかもしれませんね?』

一息。

少女は一拍置いたのち、話を続けた。

『……未来人、と』

 

◇◇◇

 

未来人。

少女はメアリーたちを指し示してそう言った。それはつまりいったい、どういうことなのだろうか。いや、言葉の通りに意味を取ってしまえば、メアリーたちは未来人でつまりここは未来の世界ということになる。

誰の世界から見て未来になるのか?

答えは単純明快。僕の世界から見た未来となるだろう。あの少女が言ったリストという言葉が気になるけれど……、それでも先ずは少女の話を聞くしかない。

思えば、いろいろと変わった点が多かった。

科学が主体ではなく、魔術が発展した世界。

しかしながら、メアリーは日本語を話すことができるし、ところどころに僕の居た世界のものがオーパーツよろしく紹介されていたこともあった。

つまり、

『地球復活計画(リバイバルプロジェクト)をファイナルフェイズに移行。生還者への状況報告を開始致します。改めまして、地球への生還おめでとうございます。先ず、私の名前から申し上げましょう。……私の名前は、Messiah(メシア)型アンドロイド「アリス」と申します』

「……え?」

僕たちはアンドロイド『アリス』が言った言葉の意味が理解出来なかった。

「待って。情報の整理が追いつかないのだけれど……。つまり、どういうこと?」

『この時代は仮に西暦で呼べるとするならば、12062年。あなたが実際に生きていた時代から「一万年後の未来」になります』

「一万年後の……未来?」

『そうですね。……私もさっき「状況報告」と言ってみましたが、一万年というのはあまりにも長い年月で、私の記憶媒体も徐々にその容量を確保出来なくなっています。メモリというのは読み書きをすることによって劣化していきます。何万回か何千回か……どれくらいになるかは解りませんが、いつしか寿命はやってきます。そしてその寿命を超えないように、なるべく読み書きしないようにしてきましたが……、それでも、一万年という年月はあまりにも長かったようですね』

「いや……、そんなことじゃない。そんなことは関係ない! 問題はどうして……その……」

『人間の文明が、あっけなく滅んでしまったか、ということについてですか?』

「……っ!」

僕は痛いところを突かれたような気分になった。

まあ、とは言ったところで、別に僕の発言に矛盾が生じてしまっているというわけでもない。実際のところはアリスが言ったその発言に動揺を隠すことができないだけだった。

『あなたが住む世界は、あなたが生まれてくる少し前から景気が悪くなってきました。いえ、正確にはそれだけの問題ではありません。環境汚染、食糧問題、戦争や紛争……、問題は数多くありました。それこそ、数え切れない程に』

「……確かに、そうだったかもしれない。けれど、それと僕がどういう関係に? 僕は確か、」

『あなたは選ばれた人間なのですよ。ホープ・リスト、私も先程申し上げましたが、そのリストに書かれた人類こそが世界の希望たる存在となっていました』

僕が、世界の希望?

いったい全体どういうことだというのだろうか?

アリスから面と向かってそう言われたところで、やっぱり信用出来ない。というよりも理解の範疇を超えている、と言ったほうが表現としては正しいのかもしれない。

『……話を続けましょうか。そのリストに書かれていた人物は合計で五万人。男女の番(つがい)で考えれば、二万五千。それが救うことのできる最大量でした』

五万人。

確か僕がいた頃の全人類が……七十二億人くらいだったか? それを考えるとけっこうな選民主義だ。いや、もしかしたらもうそれしか手が無かったのかもしれないのだけれど。

『世界の問題を解決するにはどうすればいいか。はっきり言って並大抵のことでは解決出来ません。そんなことは当然ですし、解りきっていました。ならばどうすれば良かったのか? 何日も何日も考えた結果、世界のトップはある方法を考えました。単純ですが面倒な、もしそれが事前に判明してしまったら大問題になりかねない大事故が……』

「それは……いったい?」

『模擬的に世界を破壊することです。リセットする、とでも言えばいいでしょうか? いずれにせよ、それは簡単に出来ることではありません。アイデアだけ考えてしまえば、ひどく単純ではあったのですが』

それにしても良く喋るロボットだった。僕が知っているロボットというのは、人間によってプログラムされた言葉しか話すことが出来なかったはずだった。それは即ち、このように人間みたく自然に言葉を話すことは出来ないということだった。

にもかかわらず、アリスは普通に話している。もしかしたら、アリスの居た世界と僕の居た世界は似ているようで違う世界なのではないか……?

『話を続けましょうか。その世界をリセットする行為ですが、メリットは簡潔であった以上にデメリットもまた簡潔でした。それは、リセットしたあとの人類が無事に生きていけるのか、ということでした。……当然ですよね、リセットしたあとは文明が殆ど残りません。残ったとしてもそれを維持していくためのエネルギーを生み出すことが非常に大変になるのですから』

「それでもなお……、世界を破壊しないといけなかった、ってこと? その……私たちのご先祖様は?」

ご先祖様。確かにそういう解釈になるのか。一万年も前の話を真剣に聞いていられるメアリーたちもメアリーたちであるけれど。僕だったら信用出来ずに直ぐ無視してしまうだろうけれど。

アリスは頷いて、さらに話を続けた。

『まあ、結果として一万年後、ゆっくりと人類の文明は復興していきました。いや、それだけではありません。一万年前とは違う新たな技術を発展させていき、最終的には元々の世界とは少し違った世界が作り出されました』

「魔術、か……」

今度はルーシーが言った。

魔術。確かにそれは元々の世界には無かった技術だ。ということはこの一万年の間、どこかで運命の悪戯が起きて魔術が世界の仕組みに組み込まれるようになった、ということなのだろうか。ううむ、話を聞いているだけで頭が痛くなってきた。

「……つまり、だけれど」

暫く何を話せばいいのか解らなかった僕たちは沈黙していた。

そして、その場の沈黙を破ったのはメアリーだった。

「フルから見て……私たちは未来人。そしてこの世界は一度滅んで……それから『魔術』が発展した形でこの世界は一万年かけて復興した、ということなの……?」

『その通りですよ。……ええと』

どうやらリスト以外の個人情報はインプットされていないらしい。もしかしたらそれすらもメモリの老朽化が原因なのかもしれないが。

そもそも、一万年前に作られたロボットが今も動いているということ自体がオーパーツなのではあるけれど。

「メアリーよ」

『ああ、メアリーですか。解りました。メモリがどうも古くなってしまって、こういうことも解らなくなってしまって。申し訳ありません。もしかしたら、また名前を忘れてしまうかもしれませんが』

「いいのよ、そしたらまた名前を言ってあげる。何度だって言ってあげるわ。その方が、あなたも覚えやすいでしょう?」

ロボット……というか機械全般として、得た情報はメモリに保存するため、0と1のデータに変換されてから保存される。即ち、一度覚えてしまえばこちらから消去しない限り忘れることは無いのだが……、それを言うのは野暮なことかもしれない。

『ええ……、そう。そうですね、ありがとうございます。メアリー。では、話を続けましょうか。あまり本筋から逸脱することも、悪くありませんが』

そう言って、アリスは再び話し始めた。

『そもそもの始まりは地球温暖化と呼ばれる現象からでした。地球温暖化とは名前の通り、地球が暖かくなってしまう現象のことを言います。それによって何が生まれるでしょうか? 解答は非常にシンプルなものでした。地球の氷が溶けてしまい、海水位が上昇してしまいます。そうなると、ただでさえ少ない人間の住処がさらに少なくなってしまうことでしょう。さらにそれほどの環境変化はそれ以外の動物にも変化を齎し……何が起こるか解らない状態へと昇華する。その当時の科学者は口々にそう言っていました』

「……そのために、地球をリセットしたのか?」

『それ以外の理由があったこともまた事実です。しかしながら、大元となったのは間違いなくその現象であったと考えられます。そうして2011年、ある災害が人間を襲いました』

記憶に新しい、あの災害のことか? 僕の知り合いも、そして、僕自身も被災したあの大災害。全世界が僕の国を心配し、全世界から義援金が送られた。それと同時にやり過ぎと言ってもいいくらいの『自粛』ブームへと発展していった。まあ、それ自体は僅か数ヶ月で終わってしまったのではあるけれど。

アリスの話はさらに続く。

『それによって世界は甚大な被害を受けました。それと同時に、世界のトップたちの中にはある一つの考えが浮かび上がることになりました』

「……それは?」

『地球復活計画、通称リバイバル・プロジェクトです』

リバイバル・プロジェクト。

これで漸く最初にアリスが言っていた言葉の意味が繋がった。つまり僕はリバイバル・プロジェクトの被験者として、一万年もの時を超えたのだ。

……でも、どうやって?

『地球復活計画。そんなものが成功するとは思えない。それが当時の殆どの人間の考えでした。しかし、ある占い師がこのプランを推したことで実現しました。その占い師は予言をすることが出来ると言っていたそうです。断定的になってしまっているのは、リアルタイムで彼女にお会いしたことが無いからですね』

彼女、と言ったということは女性ということになるのか。その占い師はよっぽど信頼を得ていたか実力を持っていたのだろう。

『……彼女の言葉には半信半疑になる人間も多くいたかもしれませんが、彼女の予言は必ず当たっていました。だから彼女の言葉に、結果として従うこととなりました。彼女がこのプランを推していたころからこのプランが実行されることは自明だったのかもしれませんが』

「それにしても、その占い師って随分と優秀で、なおかつ相手を手玉に取るのが上手いのね。何というか、今のリュージュに通じるものがあるのかもしれない」

『結局、彼女のプランは実行されることとなりました。それによって、三十年近い準備期間が必要となりましたけれどね』

それを聞いて、僕は首を傾げた。

今アリスは何と言った?

準備期間が三十年?

それだとしたらおかしい。僕がこの世界にやってきたのは2015年だ。もし2011年から直ぐ準備を始めたとしてもそれが終わるのが2041年。だめだ、どう考えても計算が合わない。

「ちょっと待ってくれ。そいつはおかしくないか?」

だから僕はその言葉に辻褄が合わないことを物申すためにアリスに声をかけた。

『どうかいたしましたか? 何か私の説明に不備でも……?』

「不備というか辻褄が合わないんだよ、それじゃあ。僕がこの世界にやってきたとき、確か時代は2015年だった。でも、準備期間は三十年かかったんだろ? だったら最低でも僕は2041年以降にこの世界に来ていないと論理的におかしいことになる」

『……! それは、どういうことですか。つまり、あなたは2047年にコールドスリープされたわけではない、と……』

「だから言ったじゃないか。僕は2015年からやってきたんだ。だからその話は間違っているはずなんだよ」

それを聞いたアリスは表情を曇らせる。――いや、それは嘘だった。仮に人間であるならば表情を曇らせるかもしれないというだけで、アンドロイドの彼女には表情を変えることなど出来ず、ただ無表情を貫くだけに過ぎなかった。

『しかし、それは有り得ません。あなたは「ホープ・リスト」に明記されています。それを鑑みるにあなたは2047年からコールドスリープされていないとおかしい。いえ、されているはずなのですから』

「でも……!」

だからといって、証拠が無い。

アリスにはDNA情報という確固たる証拠があるけれど、それに対して僕には何も証拠が無い。その状況だけ考えてみるとアリスが有利であることは火を見るよりも明らかだ。

いや、それどころか。長くこの世界に来ているからか、徐々にその記憶が薄れてしまっていることも事実。もしかしたら2015年ではなくて、ほんとうにアリスの言うことが正しいのでは無いか?

いや、待てよ。……いまさっき、ホープ・リストには五万人もの人間が居ると聞いたけれど、それっていったいどういうことだ?

「ちょっと待ってくれ。もし、僕がホープ・リストに名前のあった人間だとして、残りの四万九千九百九十九人はどこに行ってしまったんだ? 流石に全員消えてしまったとか、そういうことではないよな?」

『……確かに、そう言われてみると残りの方々はどこへ消えてしまったのでしょうか? でも、あなたはこの世界に居る。流石に全員が失敗したとは考えにくいのですが……』

言いたいことは解る。

けれど、僕たちだって知らないこともあるし、僕だって気が付けばラドーム学院の自分の部屋に居た。だからどれくらいの人間が僕と同時にこの世界にやってきたかどうかなんて定かでは無い。はっきりとしない、とでも言えばいいかな。けれど、もし同じ言語を話す人間が周りに居るとすればどちらかが気付くはずだ。そしてレスポンスがやってくるはずだった。それが来ない、ということは僕以外の人間はこの世界にやってきていない、ということになる。はっきり言って、それは自明なことだと言えるだろう。

「……確かにラドーム学院に、フルのような人間はフルしか居なかった。だからそれは正しいと思う。この世界には……正確に言えばこの時代にはフルしかやってきていないのではないかしら?」

言ったのはメアリーだった。メアリーの発言には僕も完全に同意だ。それにメアリーの発言には理由がある。

彼女はラドーム学院の学生だ。だから学校のことはある程度理解しているはずである。そして、僕がやってきたのは昔から知っているとどこかで聞いた覚えがある。もし、その時にほかの人も出てきていることを知っているならば――仮に日本人が居れば、という話にもなってしまうが――日本語を話すことの出来るメアリーに興味を示すはずだ。

それが無いとみれば――メアリーもそれを理解しているのだろう。僕のような人間は、僕しかいなかった、ということに。

『いや、しかし……。それは有り得ません。成功率は九十九パーセント以上。そう設計されてテストも実行されて、その後に五万人のコールドスリープが実行されたはずです』

「ねえ。コールドスリープがどういうことなのかよく解らないけれど……、時間がずれていた、とかそういうことはないのかな? 例えば、フルだけコールドスリープの時間が一万年になっていて、ほんとうは違うとか……」

『それは考えられません。それに、コールドスリープは冷凍保存のことですね。人体を冷凍して、仮死状態で保存する。そうすればほぼ永遠の時間その身体を保持することが出来るのです』

即座に否定されたルーシーはばつの悪そうな表情を示す。そりゃそうだ、あれほど本気で考えた意見をそのまますぐに否定されてしまえばテンションが下がるのも当然だろう。

結局のところ、今までのことを整理するとやっぱり僕以外の人間はコールドスリープが失敗したのではないか、という結論になってしまう。だってそれ以外の人間は見られないのだから、そういう考えに至るのは至極当然なことだと思う。

アリスの事実を聞いて、僕たちは情報を整理しきれずに手詰まり感を覚えた――ちょうどその時だった。

僕の身体が、ふわりと浮かび上がった。

「フル!!」

メアリーが叫んで、僕の身体を地面へ戻そうとする。

けれど浮かび上がる力のほうが強く、メアリーの手も離れて行ってしまう。

「これはいったい……!」

「ついに予言の勇者を手に入れたわ」

上空には小さな飛空艇が飛んでいた。一人乗りのそれには、ある女性が腰かけていた。

「リュージュ……!」

そう。

そこに居たのは、今回の黒幕であるリュージュだった。

リュージュに手を取られ、そのまま強引に飛空艇に載せられてしまう。

「リュージュ! フルを返せ!」

ルーシーが声を上げるも、リュージュは聞く耳を持たない。

「何を言っているのかしら。ついに手に入れたというものを手放すわけがないでしょう? さあ、向かいましょう。予言の勇者。この物語を終わらせるために」

そして僕は何も出来ないまま――リュージュの乗る飛空艇に載せられて、メアリーたちの場所を後にするのだった。