第五話後編

 

寮は地下にあるため、空が見えない。

だが、今日は特別に上級生の居る寮の空き部屋を使ってもいい――先生たちにとってもそちらのほうが狙われたとき対応しやすいのだという――とのことで、僕たち三人は同じ部屋で寝泊まりをすることになった。

「それにしても、上級生の部屋が空いているからと言って、三人を一つの部屋に押し込めるのはどうかと思うけれどね」

ルーシーの言葉ももっともだった。実際、この部屋は僕が寝泊まりしていた部屋と比べれば広い。だが、それも限度がある。二人くらいなら何とかなるだろうが、三人となれば話は別だ。やはり三人ならばもう少し広い部屋か、せめて二部屋にしてほしかった。

「まあ、でも、ルーシー。贅沢は言えないわよ。せっかく先生が私たちを守ってくれて、そのために特別措置としてこの部屋を使っていいとなったんだから。ね、楽しみましょう? 辛気臭いとなんでもやっていられなくなるから」

そういうものだろうか。

正直、僕はまだ気持ちの整理がついていなかった。

校長から言われたこの世界に召喚された真実。それを成し遂げるために、僕はどうすればいいのだろうか?

いや、そもそも。

僕はほんとうに予言の勇者なのか?

断定しているだけで、ほんとうはただの人間なのではないか?

もしそうであるならば、きっと肩透かしだと言われるに違いない。そんなことは言われたくない。たとえ、『あなたたちが勝手に勇者だと崇めたのでしょう』と僕が否定したとしても。人間はどの時代だって、祭り上げるだけ祭り上げて、実際違ったらあとはポイ捨て。昔そう崇めていたかもしれないが――なんてことでお茶を濁す。そういうものだ。

「ねえ、フル」

メアリーが僕のそばに寄ったのは、そんな時だった。

僕は一人でベランダから月を眺めていた。この世界の月は、なぜか知らないけれど二つある。一つはもともとの世界にあったような、とても見覚えのあるそれだが、もう一つは――少し平べったく見える。けれどもこの世界の人間はそれも『月』なのだという。あれも衛星――星なのだろうか? きっとそう質問しても、それをほんとうの意味で答えてくれる人間がどれほどいるだろうか。そんなことを考えていた。

それは現実逃避に過ぎない。

僕が校長から『予言の勇者』と言われた――紛れもない事実から目を背けるために、必死に考え付いたことに過ぎない。

「あなたが来ること……正確に言えば、あなたが別の世界からやってきたということ、実は私は知っていたの」

「え?」

それは予想外だった。

というかここにきて新事実が判明しすぎだ。

「なんとなく予想はつくと思うのだけれど……実は私はもともと祈祷師の子供だったのよ。祈祷師の子供、というだけで箔が付くものなのかもしれないけれど、私は母親の顔を見る前に――捨てられた。いや、それは言い過ぎかもしれないわね。正確に言えば、ほんとうの母親の顔を知らないのよ。知っているのは、私を育ててくれた叔父さんと叔母さん……もちろん、その二人は血のつながりなんて一切ないのよ。けれど、捨てられていた私を、ここまで育ててくれた――」

「顔も知らないのならば、なぜ君は母親が祈祷師だと知っているんだい?」

僕はその話を聞いていればきっと自然に浮かんでくるだろう疑問を、メアリーにぶつけた。

メアリーもその質問は想定済みだったのだろう。すぐに頷くと、ゆっくりと澱みなく答えていく。

「私がこの学校に入学する一年前、突然父が私を訪ねてきた。当然叔父さんと叔母さんは驚いたわ。十数年前に私を捨てておいて、突然やってきたのだから。けれど、父は詫びた。そして、私をずっと引き取っていてほしいと言ってお金を渡した。それは、私の養育費としては将来分も加味して充分すぎるほどだった、そう言っていたわ」

「メアリーの父はお金持ちだった、ということか?」

「解らない……。けれど、その時に父は話してくれた。私の母は祈祷師なのだ、と」

「さすがに、自分の子供を捨てた理由は教えちゃくれなかったわけか」

僕はそこまで言って、自分の口を手で覆う。言っていいことと悪いことがある。今のは確実に後者――悪いことに属する。メアリーが今の言葉を聞いて烈火のごとく怒ったとしても、僕は何も言えない。それほどのことを、僕は自然と口に出したのだから。

しかし、メアリーはそれを聞いて一笑に付した。

「そうだよね……。やっぱりフルもそう思うよね。安心して、昔の私もそんなことを思って訊ねたわ。けれど、答えてくれなかった。当たり前といえば当たり前かも知れない。自分の娘に、娘を捨てた理由を訊ねられて答えられるわけがない。それは今思えば、当たり前のことだったのよ」

果たして、それはほんとうにそうだったのだろうか。

今となってはメアリーの父親にそれを聞く機会など到底残されてはいないわけだが、とはいえ、メアリーの父親がそれを隠していたのには、きっと何らかの理由がある――僕はそう思わずにはいられなかった。

「ところで、メアリー。それと僕がこの世界にやってくることを知っていたこと。それはどう繋がっていくのかな?」

「あ……。ごめんなさい、実は夢の中でね、神様を見たのよ」

「神様……って、ガラムドのことかい?」

僕の言葉に、こくり、と頷くメアリー。

「夢の中で、神様は私に言ったのよ。予言の勇者を手助けしろ、って」

神様直々の言葉とは、参ったな。

そんなに世界を破滅させたくないのなら、神様が自ら手を下せばいいのに。

そんなことは、口が裂けても言えないと思うけれど。

「だから私はフルがやってきた瞬間、ピンときたわ。あ、予言の勇者がやってきたの、って」

「けれど君は初日、僕を起こしてきたよね? まるで僕がずっとこの世界に住んでいたかのような扱いをしていた。それは、僕がこの世界にやってくることを知っていて、あえて演技をしていた……そういうことなのかい?」

核心を突く言葉だったのか、メアリーは俯いてしまった。

「……メアリー、もし気分を害してしまったのならば、それは申し訳ない。けれど、僕は知りたいんだ。もしそうならば、うんと頷いてくれないか」

そして、メアリーはゆっくりと――ゆっくりと頷いた。

「なあ、そろそろ眠らないか? 明日に響くぜ。明日の夕方にはみんな帰ってくるんだろ? ……正直僕だってこんな雰囲気壊したくなかったけれど、言いたいことだけは言わせてもらうよ。これで睡眠不足になって授業中に眠ってもらっては困るからね」

いいタイミングで、ほんとうにいいタイミングでルーシーが入ってきた。

僕はそれを聞いて、微笑む。

「これをバッドタイミングだと思うなら、君の目は節穴だぜ? 今は超絶好のチャンスだった。いい機会だよ。話もうまい具合に切れたし。……さて、それじゃ寝ることにしようか、メアリー」

「そうね」

メアリーは短く言うと、僕よりも先に部屋の中へ入ろうとした。

「……それにしてもメアリー」

「うん?」

メアリーは振り返る。

僕はメアリーのほうを向かないまま、二つの月を見て、言った。

「今日は、月がほんとうに綺麗だね」

「そうね、ほんとうに。いつもなら、こんなに明るくならないのに。それじゃ、私はもう中に入って寝る準備をするから。フルも早く寝てね」

「了解」

そう言って頷いて、僕もメアリーの後を追うように、部屋の中へと入っていった。

ほんとうに月が綺麗な、夜だった。

こんな夜は僕のいた世界でもあまり見かけなかったかもしれない――そう思って、名残惜しく、僕はベランダの扉を閉めた。

 

◇◇◇

 

二日後。

二泊三日と言われた研修も終わり、普通ならばもう戻ってきていてもおかしくないはずだった。

しかし、誰も戻ってくることは無かった。

「……誰も来ないね」

ルーシーは言った。その言葉に僕は頷く。

確かにその通りだと思う。ほんとうにどこへ行ったのだろうか? まったく理解できなかった。

「……みなさん、おはようございます」

サリー先生が入ってきて、いつもと様子がおかしいことに気付く。

サリー先生はこの事実について気付いているということなのだろうか?

「学生全員、どこへ消えてしまったのか……あなたたちはそれについて聞きたいのでしょう」

サリー先生は唐突に核心を突いた発言をした。

確かにそれは聞きたかった。どうしてこんなことになってしまったのか――理解できなかったそのことを、もし知っているというならば教えてほしかった。

「……きっと、気付かれたのでしょう。この世界を滅ぼしたいと願う存在が、この世界を救うと言われている勇者が呼び出されたということに」

「勇者が呼び出されたこと……そんなこと、解るんですか?」

「それは、はっきり言って私が言いたいわ。けれど、そうなのでしょう。だって学生は戻ってきていない。予言の勇者が復活したことは、私たちしか知り得ないはず。けれどこんなことになってしまった。……原因は一つしか考えられませんよ」

それを聞いて、僕は、僕がその原因を作ってしまったのだと思い、深く後悔した。

はっきり言って呼び出された側である僕が迷惑を被っているわけだが、この世界の人間にはそんなことどうでもよいことだ。人間は誰も、自分さえ良ければいいと思っているのだから。

「そして、校長にこの事実をお話ししました。すると校長はこう言いました」

「ハイダルク城に保護してもらう。そのために、君たちにはフィールドワークをしてもらうのだよ」

サリー先生の言葉をさえぎるように、誰かの声が聞こえた。

その声がしたほうを向くと、扉のそばに校長先生が立っていた。

「校長! どうしてここに……」

「先生を通した発言を聞いてもらうよりも、君たちに対して私の発言を直接話したほうがいいと思ったのだよ。突然の方向転換で、ほんとうに申し訳ない。ほんとうならば、私の手で君たちを守りたいものだが……それにも限度があることもまた事実だ。それについては、申し訳ないと思っている」

「いえ、別に……」

「だが、学生を狙った後は、君たちを狙うはずだ。学生を吟味して、予言の勇者ではないと判別しているだろうからな。正確に言えば、予言の勇者かどうか選別していると言ってもいいだろうが……その細かい話についてはどうでもいいだろう。学生のことについては、私が全力で助け出す。それが、私の役目であり責務だからだ」

校長先生はそう言って、大きく頷く。

それに続いてサリー先生も大きく頷いた後、僕たちのほうに向きなおした。

「そういうことです。私たちがあなたたちを守ることが出来ないのはほんとうに残念であり心苦しいことではありますが……いつか必ず、あなたたちが戻ってこられるような学院にします。それが私たち先生の役割です」

つまり恒久的ではなく、一時的な措置。

サリー先生はそう言っていた。

ならばそう難しいことではないのだろうか? 実際、ハイダルク城までどれくらいの距離があるのか判明していない現状、途方もない未来について予想しているだけに過ぎないけれど。

「私の古い友人がハイダルク城……ああ、今あそこは『リーガル城』と呼ぶのだったか。つい古い名前で呼んでしまうな。まあ、それについてはどうだっていい。そこに古い友人が居て、そこに匿ってもらうことにした。どれくらい時間がかかるかは解らないが……君たちに危機が迫らないように、我々も頑張るよ」

「ということは……」

メアリーは何かを察したらしい。目を細めてサリー先生に問いかける。

「サリー先生、校長先生。私たちは……この世界を救うために、旅に出ろ……ということなのですか?」

サリー先生も、校長先生も、その言葉について明確な解答を示すことは無かった。

ただ狼狽えるような表情を、仕草を、雰囲気を見せるばかりだった。

 

◇◇◇

 

次の日は、とても寒かった。

ベッドから起き上がりたくなかった。

昨日のような部屋ではなくて、僕のためにもともと用意されていた部屋だった。

ベッドのかけ毛布は今の僕にとってとても重たく、起き上がるのを拒むようだった。

そして僕自身も、起き上がることを拒んでいた。

ノックが聞こえたのは、そんな時だった。

「フル、入ってもいい?」

そう言ったのは、メアリーだった。

僕は何も答えなかった。答えたくなかった。答えられなかった。きっと恥ずかしい解答しかメアリーに提示することが出来なかったからだ。

するとメアリーは勝手に中に入ってきて、ベッドの上に腰かけた。

僕はベッドの中に引きこもり、メアリーはベッドの上から僕に問いかける。

「……ねえ、フル」

「何だい」

「……世界を救うとか、勇者とか、そういうこと私はあまり解らないけれど」

そう前置きして、メアリーは言った。

「そういうこと、私は素晴らしいと思うな。自分の役割がある、ということを言えばいいのかな? まあ、誰も役割が無いことは無いと思うけれど、あなたの役割はとても素晴らしいことだと思うのよ」

「……解らないくせに、何を言っているんだよ」

「解らないからこそ、よ。あなたのことは解らない。けれど、それは同時に逆のことでも言えるでしょう? 私のことを、あなたは解らない。そしてあなたのことを、私は解らない」

「そうなのかな……」

けれど、突然勇者だと言われて動揺しないほうがおかしい。

そして学生が消えた原因が――僕かもしれないと言われて、悲観しないほうがおかしいのだから。

おかしくない。おかしくない。

僕は普通だ。正常だ。

これこそが正常であり、そう考えないほうが異常なのだから。

「ほんとうに、そうなのかな」

メアリーは、さらに僕に疑問を投げかける。

「仮にあなたがそう思っていたとしても、それは間違っていることだと思うよ。きっとあなたはそれが普通だと認識しているのかもしれないけれど、私から見ればそれは異常だと思う。そもそも、誰もが見て『普通』なんてそう簡単に見つからないことだよ。だからこそ、あなたが勇者として選ばれて呼び出されたことも、私たちがあなたについていくということも、きっと最初から決まっていたのよ」

メアリーは、優しい。

彼女は巻き込まれた側であるというのに、どうして彼女はそこまで僕に親身にしてくれるのだろうか。

そんな彼女の優しさが――とても嬉しかった。

「取り敢えず、外に出ているからね。準備はもうできているからさ。あなたも準備が出来たら、いつもの教室に来てね。私とルーシーは、いつまでもあなたのことを待っているから」

そう言って、メアリーは部屋を出ていった。

 

◇◇◇

 

僕が教室の扉を開けたのは、それから三十分後のことになる。

扉を開けたその中には、ルーシーとメアリーが大きな荷物を持って席に座っていた。

「おはよう」

僕はただ、その一言だけを告げて、いつも通り席に腰かける。

「おはよう、フル」

「フル、おはよう」

二人はそれぞれ僕に挨拶をかける。三十分も待ったことについて何も言わなかった。

「……」

そして、沈黙が教室を包み込んだ。

誰も話したがらないし、どことなく暗い雰囲気だ。やはりみんな、怖いのだ。誰もかれも、怖い。この先どうなってしまうのか、ということについて――考えるのは当然のことだろう。

「おはようございます」

サリー先生が教室に入ってきたのはそれから五分後のことだった。

僕たちはいつものように挨拶を先生にする。

サリー先生もまたいつものように教壇に立つと、僕たちを見渡して頷く。

「どうやら全員集まっているようね。それじゃあ、今後の予定を話すわね」

そう言って、紙を広げるサリー先生。

その紙を見ながらサリー先生は話を続ける。

「リーガル城があるハイダルク本土へ向かうには、やはり船となります。本来であれば転送魔法を使ってもよかったのですが、正直なところ私の力では港までが限界です。ヤタクミは知らないかもしれませんが、港からは本土への定期船が出ています。本土まではそれを利用し、そのあとは陸路となります。まあ、そう遠くは無いでしょう。校長先生曰く、途中の町までは使いを出すと言っていましたので」

「使い、ですか」

それにしてもそんなことをできる、校長先生の古い友人とはいったい誰なのか。まさか、国王とかそれくらい高い地位の人間じゃないだろうね?

「解りましたか?」

サリー先生は一人一人の表情を見つめながら、そう言った。

「はい」

やはりどこか表情が暗い。仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。

「転送の魔法陣はすでに完成してあります。まずはそこまでみなさんを案内しますね」

そう言って、サリー先生は教室を出ていく。

僕たちは名残惜しく、教室を後にした。

 

 

魔法陣は校庭に描かれていた。

緑色の光が淡く滲み出ているそれは、どうやらもう魔法が発動しかけているのだという。

「それでは、これに乗れば自動的に――。あとは私の『鍵』によって発動しますが」

そう聞いて、僕たちは魔法陣に乗る。

「サリー先生……」

僕はサリー先生に問いかける。

ほんとうに幸せになるのか、と。

ほんとうにこの先、平和な世界がやってくるのか、と。

言おうとしても、その質問が、その言葉が出てこない。

それを理解してくれたのか、サリー先生は頷く。

「大丈夫ですよ、フル・ヤタクミ。これが今生の別れになるわけではないのですから。すぐあなたたちが戻ることのできるようにしてあげます。ですから、そんな悲しそうな表情をしないでください。いいですね?」

「は、はい!」

その言葉に、僕はとても勇気づけられた。

サリー先生の言葉は、そういう言葉の常套句を並べただけかもしれないけれど、それを聞いてなぜかとても安心した。

そしてそれを見て――サリー先生も察したのか、その最後の『鍵』を口にした。

目を瞑り、両手を合わせる。

そのポーズはどこか、神への祈りを捧げているような――そんな感じにも見えた。

「我、命ずる。かの者が、無事に辿り着くことを――!」

そして、僕たちの視界は淡い緑に包まれた。

 

◇◇◇

 

船の上から見る海は、とても穏やかだった。

ゆっくりと小さくなっていく学院、そしてレキギ島を見て僕は小さく溜息を吐いた。

レキギ島とハイダルク本土を結ぶ定期船。僕たちはそれに乗って、ハイダルク本土の港町アリューシャへと向かっていた。

「船、乗ったこと無いんだよな。フルはあるかい?」

甲板に立って海を眺めていた僕に、ルーシーは問いかける。

「そうだね。僕がもともと居た世界では、船は世界中にあって、そしていろいろな航路があるからね。あとは空を飛ぶ船もあるよ」

「空を飛ぶ船、だって? そんなものがあるのか?」

ルーシーは身を乗り出して僕に訊ねる。余程空を飛ぶ船のことが衝撃だったらしい。

「まあ、その名前は飛行機というのだけれど、あれは快適だよ。けれど、船よりも大きくて船よりも早く進む。だからとても素晴らしいものなんだよ」

「へえ、それは一度ぜひ乗ってみたいものだな」

そんな二人の会話が流れていく、ちょうどそんな時だった。

 

――唐突に、船が二つに割れた。

 

「……は?」

瞬間、僕は何が起きたのか理解できなかった。

そしてそれを部分的に理解できるようになったのはそれから少しして――正確に言えば、海に落ちたタイミングでのことだった。

「がはっ!! ……な、何で急に船が!」

「解らないよ! ええと、メアリー! メアリーは無事か!」

「ここにいるわ!」

メアリーはルーシーの後ろに居た。ほかの乗客も船員も何とか泳いでいる。どうやら無事らしい。

「けれど、ここからどうすれば……!」

まさに絶体絶命。

どうすればいいのか、すぐに冷静な判断が出来なかった。

逆にそれが命取りとなった。

目の前に出現したのは――その船を二つに割った元凶だった。

巨大な海の獣。

しかしその表情は、人間に近い――人間そのものと言ってもよかった。

牙を出して、目を血走らせ、僕たちを睨みつけている。

こんな獣が、この世界に居るのか。

そんな説明は、歴史の授業では無かったはずだぞ!

そう叫びたくても、今は無駄だし、もう遅い。

「……フル、ルーシー、潜って!!」

メアリーの言葉を聞いて、僕は言葉通りに潜る。

刹那、海を切り裂くエネルギー弾が撃ち放たれた。

その衝撃をモロに食らった僕は――気づけば視界が黒に染まっていた。

 

 

目を覚ますと、そこは砂浜だった。

白い砂浜、青い海。僕の居た世界だったら、素晴らしい風景の一つだろう。

けれど、今は絶望的なそれとなっている。

僕はぎらつく太陽で目を覚ました。

太陽がとても暑い。どうやらこの世界は、寒暖の差がとても激しいようだった。

「う、うーん……フル?」

メアリーが目を覚ました。どうやらメアリーも無事のようだった。ルーシーはまだ目を覚まさないので、待機することにした。

メアリーは起き上がると、砂だらけになっている衣服から砂を払った。……そもそも、水に濡れているうえで砂がついているので、その程度でとれるわけがないのだが。それを言ったとしても、きっと彼女はそれをやめることは無いだろう。女の子というのは、そういうものと案外相場が決まっているのだから。

ルーシーもそのあと目を覚まして、僕は二人の無事を確認した。無事、と言えば少々仰々しい話になるけれど、まあ、それは表現の問題ということで。

そして、僕は、二人に問いかけるように――こう言った。

「――ここは、どこだ?」

その疑問は、少なくとも今の状況では最大といえるものに違いなかった。

 

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