第三話

 

それから数日が経過した。

どうやら僕が最初に目を覚ました場所は寮だったようで――しかも一人部屋だった。

はっきり言ってそれはとても有難いことだった。もしペアが居たとすれば会話に困っていたからだ。だってすぐに考えてみれば帰結することになるのだが、話すことのできない人間がペアに居れば部屋にいる間の時間がとても長く感じるはずだし、とても辛かったはずだ。

そして僕もなんとなくこの世界の言語を理解できるようになってきた。

その日の授業にて、先生――サリー先生が、こんなことを言ってきた。

「今日からフィールドワークを実施します。三人で一グループとなり、上級生を一人つける形になります。だから、合計四名で旅をするということになるかしらね」

それを聞いて学生たちは騒然とし始める。

まあ、当然のことといえば、当然かもしれない。これが仮に予告されているものならばよかったのだが、前日にすら予告が無かった。きっと先生からしてみればサプライズの一面もあったのかもしれないが、だとしても少々悪質なところがあるのも否めなかった。

「静かにしなさい。別に、フィールドワークといってもこの島――レキギ島から出ることはありません。だから安心してください。あなたたちに危険が及ばないように、配慮はしています。だから、落ち着いて」

そういわれても納得できないものもある。

「それじゃあ、班を決めましょうか。班はくじで決めるわ。同じ数字のくじの人とメンバーを組んでね」

「ええー!?」

再びブーイングの嵐が起こる。思えばもともとの僕の世界でも、仲の良いメンバーと組みたがる性質があった。そういう性質はどこの世界でも変わらないのかもしれない。

「静かにしなさい! いいから並んで、くじを引いて」

そう言ってサリー先生は予め用意していたと思われる箱を取り出した。

その箱を見て、もう学生たちは仕方がないと思ったのだろう。教壇にぞろぞろと向かっていく。それを見てメアリーも諦めたようで、小さく溜息を吐いて、そちらへと向かっていった。

 

 

くじを引いた結果、僕とメアリーは同じ番号だった。それは充分有難いことだった。別に、メアリーから教えてもらったから言葉が話せないというわけではない。問題は、誰も知らない空間において、顔も見たことのない人間三人と旅をするのは正直言って苦痛だった。

もともと人見知りがあるとはいえ、そうであったとしても知っている人と、できればコンビを組みたかった。

「……フル、よかったね、一緒で」

それを聞いてこくりと頷く僕。確かにその通りだった。メアリーは優秀だと自負しているしその通りだと思っている。だからこそ、同じメンバーにメアリーが居るというのはとても心強い。

さて、覚えているだろうか。

メンバーは二人ではなく、三人であるということを。

「……3番はここかい?」

それを聞いて、僕は振り返る。

そこに立っていたのは、やはり黒髪の少年だった。あどけなさが残る顔つき、柔和な笑みを浮かべていた彼は、訊ねる。

「なあ、聞かせてくれないか? 3番はここで間違いないか?」

それを聞いて、僕は――一瞬考えて、頷く。

「ああ、ここが3番だ。ちなみに彼女も同じく3番だよ」

「彼女……」

彼はメアリーのほうを一瞥して、頷く。

「よろしく頼むよ、僕の名前はルーシー。ルーシー・アドバリーだ」

そう、彼――ルーシーは僕とメアリーのほうを見て言った。

「さて、挨拶も軽く済ませたところで……次は行き先を選定するわよ! もちろん、こちらもくじで決定します」

サリー先生の言葉を聞いて、再び学生からはブーイングの嵐が起こる。

行く場所くらい自分で決めさせてくれ――とかそんなことを思っているのかもしれないが、僕から言わせてみればすべてが『異世界』で『行ったことのない場所』になるので、別にどこでもいいところだった。

「静かにしなさい!」

再び、サリー先生は場を鎮めるために大声を出した。

しん、と静まり返る教室。

サリー先生は息を吸って、話を続けた。

「いい? くじは偶然で決まるのよ、偶然は運命、そして運命は必然。運命はあなたたちがすべきことを教えてくれる……それは授業でも教えたでしょう? だから、くじが一番いいことなのよ」

そう言われて、学生たちは再び箱のほうへ向かう。

なんというか、ここの学生はどこか理解が早い。そういう印象がある。

「さあ、くじを引いてちょうだい。あ、一応言っておくけれど、さきほどのくじで番号に丸がついている人がリーダーになるから、よろしくね!」

そう聞いてそれぞれが先ほどのカードを見つめる。

メアリーとルーシーは丸がついていないようだった。ということは……。

……想像通り、僕のカードの番号には丸がついていた。

それを二人に見せて、

「どうやら、僕がリーダーのようだ」

そう言った。

メアリーとルーシーは何も言わなかったが、僕の言葉を聞いて強く頷いた。

 

 

くじを引いた結果、またもや3番だった。どうやら3の数字に愛されているようだ。

……そんな冗談を言えるようになったということは、どうやら僕もこの世界に馴染んできたのかもしれない。

「行き先はここに記してあるので、それを見てちょうだい」

そう言って、サリー先生は黒板に張り出してある地図を指さした。いったいいつの間にそんなものを張り出したのか解らなかったが、今は質問する必要も無いだろう。別に必要なことでもないし。

地図を見に行くために、僕はそちらへと向かう。僕が地図を見ていると、その背後にメアリーとルーシーもやってきた。

「番号は何番だい?」

ルーシーの問いに、僕はカードを見せつけることで答えた。

「3番……ええと、これかな。トライヤムチェン族の集落……」

「トライヤムチェン族といえば先住民族ね。確か世界がいつに滅ぶとか言っていたような……」

「今年だよ。ガラムド暦二〇一五年。今年のどこかに災厄が起きて、世界が滅ぶってこと。まあ、彼らの祖先がカレンダーをそこまでしか作っていなかったから、というのが理由らしいけれど、普通に考えると、二千年以上昔に、二千年分のカレンダーを作るだけでも大変だというのに、きっとそのあたりで飽きたからだと思うのだけれどね。意外と真実って、つまらないものだというのが相場だし」

よく解らないけれど、先住民族か。

何を見に行くのか解らないけれど、取り敢えずこのメンバーならば何とかやっていけそうだ。僕はなんとなく、そんなことを思うのだった。

「君たちが、トライヤムチェン族の集落に向かうメンバー、で間違いないかな?」

そう言って僕のほうに立っていたのは、青年だった。僕よりもどこか大人びた様子の青年は、見た感じ優等生っぽいオーラを放っているように見えた。あまりにもそう見えて、若干胡散臭さすら感じるレベルだった。

その青年は僕たちに向けて柔和な笑みを浮かべると、話を続けた。

「僕の名前はルイス・ディスコード。まあ、苗字で呼ぶと言い難いだろうから、名前で呼んでもらって構わないよ。君たちをトライヤムチェン族の集落まで案内する。道は険しいが、そう時間がかかる場所じゃない。もって半日程度かな。明日の朝出発して、夕方に到着する感じになる」

レキギ島の北端に位置する集落と、南端に位置する学院では相当な距離がかかるものが予想されていたが、半日で済むのならばそれはそれで問題なかった。一日以上かかるというのならば、面倒なことになると思っていたが。

「期間は二泊三日です。三日間という短い期間で何ができるのか、正直言って先生にも解りません。けれど、できる限りの経験を、知識を蓄えてきてください。そうして、成長にフィードバックしてください。それができるのであれば、先生は問題ありません」

それを聞いて頷く学生たち。

だからどうしてそこまで理解が早いのか、疑問を浮かべてしまうほどだが、今ここでは考えないほうがいいだろう。

「さあ、それじゃ、授業は終わり! 明日朝、出発するように! 準備も今のうちに進めておいてね。それじゃ、みなさん」

一拍おいて、サリー先生は言った。

「良い旅にしてきてね!」

 

◇◇◇

 

次の日は、とても寒かった。さすがに雪まで降っていなかったが、息を吐くととても白かった。

なぜか僕の部屋にはサイズがぴったりの外套がいくつかあったので、それを拝借していくことにした。まあ、深く考えないでおこう。異世界召喚のお約束、というやつかもしれないし。

「寒くはないかい?」

ルイスさんが僕に問いかける。外套を着ているので、何とか大丈夫です――ということを伝えると微笑んで頷いた。ただ、それだけだった。

ちなみに、まだメアリーとルーシーは来ていない。彼女たちが遅刻しているわけではなく、僕たちが早かっただけだ。

正確に言えば、早すぎた――のかもしれない。今はまだほかの班も集まっていない。

だから今はルイスさんと僕だけだ。

面識のない上級生と、僕だけが学院の前に取り残されている形となる。

正確に言えば、その表現もどこかおかしいのかもしれないけれど。

「ええと、君の名前は……」

ルイスさんは何枚かの綴じられた冊子を見ながら、言った。

どうやら僕の名前を探しているようだった。

「フルです。フル・ヤタクミ」

「フル・ヤタクミ、ね……。ああ、あった、あった。アルケミークラスで成績は平凡的。うん、まあ、別に問題はないよ。成績と実際は関係ないからね。君が実戦がどれくらい働くことができるか、それが重要なのだから」

「実戦、ですか……」

まるでこれから戦いに出向くような、そんな言い方だった。

ルイスさんはハハハと笑い声をあげて、

「まあ、そう真剣な表情をしなくていい。昔は少し魔物くらい出たかもしれないが、今は完全に平和になったからな。メタモルフォーズだったかな? 古の魔物だったと思うが、それも滅亡したし、今は平和そのものだよ」

「メタモルフォーズ……ですか?」

メタモルフォーズ。

歴史の中で聞いたことのある、異形。それは少なくとも僕が昔居た世界では見たことのない、この世界独特の生き物だと思う。思う、としているのは見たことがないからであるが、滅亡していることまでは覚えていなかった。

「メタモルフォーズって……すごい生き物なんですか」

「さあ? 確かに人間を食ったとか文明を一日で滅ぼしたとか摩訶不思議なことも教えられたけれど、あくまでも歴史上の話だからね。どこまで本当かどうか解ったものではない。まあ、そう言い切ってしまうと歴史学者の人が涙目になってしまうだろうから言わないでおくけれど」

大丈夫です。もう充分涙目になっています、たぶん。

そんなことを思っていたら、校舎のほうから二人がやってきた。

「遅れてすいません。もしかして……けっこうな時間待っていましたか?」

メアリーの言葉に、微笑むルイスさん。

「いいや、今来たばかりだよ。それにしても今日は冷えるね。二人とも、大丈夫かい? 一応半日かからないくらいで着く予定ではあるけれど、夕方になるとさらに冷えてくるし、北のほうに向かうからね」

「いえ、大丈夫です。ルーシーは?」

「僕も問題ないよ……ええ、大丈夫です」

二人の返事を聞いて頷くルイスさん。そして、踵を返して、

「それじゃ、出発しようか。ちょっと早いかもしれないけれど……トライヤムチェン族の集落にはなるべく早く着いたほうがいいだろうし!」

そして僕たちは、先住民族トライヤムチェン族の住む集落へと向かうべく、その第一歩を踏み出した。

 

 

まことに残念ながら、トライヤムチェン族の集落に着くまでの間は特筆する事項が無かった。せいぜい、他愛もない世間話をした程度だった。しかしながら、細かい気遣いなど、その他もろもろのいろんな所作を見ていると、やはりルイスさんは模範的で優秀な上級生だということが理解できた。正直、この世界の制度がよく解っていないけれど、少なくとも下級生は目標にするような学生であることは充分理解できた。

森を抜けて、山を越えて。

山間に佇むトライヤムチェン族の集落が見えてきたときには、日が暮れかけていた。

「何とか夕方前には着いたね……。いやあ、何とかなるものだね。最初はどうなるかと思っていたよ」

ルイスさんは額の汗を拭いて、頷く。

僕もそう思っていた。半日、とは言っていたけれど何せ僕にはこの世界の地理に関する情報が無い。だから、そこで躓いてしまって普段以上に時間がかかってしまうのではないか、そんなことを思っていたからだ。

しかし蓋を開けてみると――意外と前の世界と変わらない風土だったのが功を奏して、そういう状況に陥ることは無かった。

「さて、それじゃ集落に向かうことにしよう。到着したらその足で村長の家に向かい挨拶をする。夜にある儀式を見て、次の日にトライヤムチェン族について学び、その次の日の朝に出るという日程だ」

「解りました」

「それじゃ、先ずは村長さんの家に行くんですね?」

ルーシーとメアリーがそれぞれ言ったので、ルイスさんはそれに頷く。

「そうだ。物分かりがいいようで、僕もだいぶ助かるよ。村長の家は集落の北側にある一番屋根の大きな家だ。さあ、向かうことにしよう」

そうして僕たちはトライヤムチェン族の集落へと足を踏み入れた。

 

◇◇◇

 

木でできた巨大な柵に囲まれた村。

それがトライヤムチェン族の集落を見た第一印象だった。唯一解放されている門も、どこか物々しい雰囲気を放っていた。

しかし、中に入ってみると、

「お兄ちゃんたち、旅の人?」

「違いますよ、ラドーム学院から来ました。村長さんの家はどちらになりますか?」

ルイスさんが丁寧に子供に訊ねる。

子供は見た感じ、元の世界に居た子供と同じような感じに見える。

それはそれで有難かった。もし、実際に違う雰囲気だったらそれは面倒なことになるだろう――そう思っていたからだ。

「有難う。それじゃ、向かうことにしようか」

ルイスさんの言葉を聞いて、僕たちは村長の家へと向かうことにした。

 

 

村長の家に着くと、家の前に立っていた男が僕たちの前に立ち塞がった。当然と言えば当然かもしれない。見知らぬ人間が村の長の家に入ろうというのだから不審に思わないほうがおかしいだろう。

「何用だ」

「ラドーム学院の研修で来ました、ルイス・ディスコードといいます」

それを聞いて男は怪訝な表情を浮かべていたのをやめて、笑みを浮かべる。

「ラドーム学院か。ならば話は聞いている。そのまま通るといい。村長は真ん前に座っているから、粗相のないように」

「有難うございます」

そして僕たちは村長の家へと入っていった。

入口についていた布を暖簾替わりに手でどけて中へ入る。中は質素なつくりだった。土の床の上にカーペットを敷いて、真ん中にはさながら囲炉裏のような感じに穴があけられて、そこにたき火がしてある。それにより一定の明かりが保たれており、村長の顔が見ることができた。

顎鬚を蓄えた老齢の男だった。『村長』といえばこういう雰囲気だろう――というイメージを美味い具合に表現した感じになる。

「遠くまでご苦労でしたのう。ささ、先ずは座りなされ」

その言葉を聞いて「失礼します」と言い、僕たちは安坐の姿勢をとる。

「さて……私たちは何を話せばいいのだったか。ええと、確か……」

「儀式、でございます。村長」

そう口出ししたのは、村長の隣に正座の姿勢をとっていた若い女性だった。若い、と言っても僕より年上だろう。質素な雰囲気だったが、その飾らない感じだけでもどこか可愛い雰囲気に見えた。

さて、村長はその女性の言葉を聞いて思い出したかのように手をたたいた。

「ああ、そうだった。儀式、と言ってもそんな仰々しいものではなくてなあ……。どこまでお伝えすればいいものか。ええと、先ずはこの世界の歴史について、簡単に説明することとしましょうか。どこまで授業で習っているのでしょう? 偉大なる戦いは知っていますか?」

それを聞いてこくりと頷くメアリー。僕も偉大なる戦いについては何となくというレベルで知っている。しかし、詳細となると答えられるかどうかは曖昧だけれど。

「まあ、そんな小難しい話をするつもりは毛頭無いので、そのつもりで。……偉大なる戦いは、今から二千年以上昔に起きた戦乱のことだ。歴史上で幾度となく我々を攻撃してきた謎のバケモノ、メタモルフォーズのプロトタイプと言われている『オリジナルフォーズ』が我々に攻撃をしてきたこと、それが始まりであると言われている」

「オリジナルフォーズ……」

またも解らない単語が出てきたぞ。

「オリジナルフォーズは強力な存在であったと伝わっておるよ。そして、そこで戦ったのは勇気ある若者たちだった。武器を手に取って、オリジナルフォーズは封印された。この世界の東に岩山で囲まれた島があるだろう。あれが、オリジナルフォーズの封印された島であると言われている。そして、その島は今スノーフォグが管理している。あそこは、祈祷師が自ら管理している非常に珍しい国家であるからね」

スノーフォグは祈祷師が管理している――ね。

それにしても、祈祷師ってなんだ? スノーフォグは地理の授業で何となく聞いたから知っているけれど。

この世界は少々面倒な世界だと、授業で習った。

あくまでも僕が知っているのは授業で習った知識の範疇になるけれど、復習も兼ねて脳内で整理することにしよう。

この世界はスノーフォグ、ハイダルク、レガドールという三つの国家で形成されている。非常に狭い世界となっている。地球みたく球体になっているのではなく、平べったい瓦のような感じになっていると予測されている。予測されている――という曖昧な表現となっているのはそこまで科学技術が発展していないためで、宇宙に人類が未だ進出出来ていないからだと言われている。

そしてそういう風に世界が形成されてしまった理由が――。

「偉大なる戦いによる被害は、世界の形成にも繋がった。昔はこの世界も球体だったと言われているが、今はプレートのような世界となっている。世界の果ては、滝のようになっているそうだよ? 水が流れているのだという。どこへ流れているのかは、未だ誰も調べたことがない。その先に深淵がある、としか解らないからだ」

「偉大なる戦いは……このトライヤムチェン族と何か関係があるのですか?」

「トライヤムチェン族は、もともと祓術師だったのだよ。神の一族、といえば聞こえがいいかもしれないが、圧倒的権力を誇っていた祈祷師と違って祓術師は何も出来なかった。力を失い何も出来なくなった祓術師は自らのテリトリーを作り、それを守ることで精いっぱいだった」

祓術師。

それは歴史の授業で聞いたことがある。ただ、あくまでも単語だけに過ぎないが。

「そもそも、祈祷師と祓術師とは何が違うのでしょうか? 正直なところ、まったく違いがあるようには見えないのですが……」

「祈祷師は政治を見る。もともとは神に祈りをささげて、神からお告げを聞くものだったのだよ。だから政治なんてかかわることではなかった。むろん、それは我々も……だが。政治は政治を知る人間にやらせてしまえばいいのだよ。けれども、それを両立したのがリュージュだった」

「リュージュ……」

「今のスノーフォグを統べる、王の名前だよ。彼女は『弾丸の雨』と『二度目の終わり(セカンド・ウォー)』を予言したのだからな。それによって、国王からの信頼が高まった。かつては、ハイダルク一国で世界を治めていたが、二度の災厄の事後処理等を命じて、同時に国王は彼女をスノーフォグの王に任命した」

さてと、と言って村長は一拍置いた。

「そろそろ儀式の始まる時間だ。準備も出来たことだろう。儀式は簡単なものだ。君たちには見ていただくだけになると思うが、一応説明だけはしておくことにしよう。これから村の中心にあった石像へと向かう。村人でそれを取り囲み、一斉に頭をさげて祈りをささげる。そうしてみんなで手を取り合って、我々の民謡を歌う。民謡、と言っても神に祈りをささげる、その代わりと言えるだろう。それを歌い、あとは宴が始まる。それで終わりだ。まあ、そのまま見ていただければいいだろう。……と言いたいところだが、」

言いたいところだが? 僕はそこが引っ掛かった。どうして急にそんなことを言い出したのか、僕にはそれが解らなかった。

「確かあなたの名前は……フル・ヤタクミだったかな?」

顎鬚を弄りながら、僕の名前を言った。

「はい……。確かに、フル・ヤタクミは僕ですが」

「そうか」

小さく溜息を吐いて、周りを見渡して、そして僕に視線を戻して、言った。

「不穏な気配が、あなたの周りに潜んでおりますぞ。努々、気を付けなされ。あと、その不穏な気配にも忠告しておきましょう。これは最後通告だ。何をしようとしているのか解らないが……その気配を隠そうとしても無駄だ、と言っておきましょう」

 

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